いよいよ令和5年10月1日からインボイス制度が開始されます。
この制度は消費税法の「仕入税額控除」という計算の仕組みに関するものであり、理解するためには消費税の知識が必要となります。
(仕入税額控除とは消費税で使われる用語で、のちほどご説明します。)
今回の記事は前後編の2編に分かれています。
前編でまず①消費税の基本的な仕組みと②消費税に関わるインボイス制度の基本的な内容の説明を行います。
後編は、はじめに①消費税・インボイス制度をかんたんに理解するための資料を使って復習を行い、その知識を使って②実際に実務を行っていく際に必要な事前準備についてご説明していきます。
ここからは後編の説明に入っていきますので、前編をまだ確認されていない方は、まずは前編のページからお願いします。
目次
前編 消費税・インボイス制度の理解
- 消費税についての基本的な考え方
- インボイス制度の概要
後編 インボイス制度の導入にあたって
- 前編の復習(消費税・インボイス制度を簡単に理解するためのダイコン流通物語)
- 必要な事前準備について
後編 インボイス制度の導入にあたって
1.前編の復習 ~消費税・インボイス制度を簡単に理解するためのダイコン流通物語~
前編で説明をした消費税の仕組みやインボイス制度について、1本のダイコンの流通(生産者→卸売→小売→消費者)を例に簡単に復習をしていきましょう。
※ダイコンは食品のため軽減税率8%を適用されますが、計算が複雑になりますので今回は10%としています。
消費税をかんたんに理解するためのダイコン流通物語
~この世の取引が大根に関するものだけだった場合、消費税がどうなるのか~
課税事業者編
今回は、関わっている事業者は全員課税事業者というケースです。そのため消費税の納税者は農家、市場、スーパーの三人で、納税額は合わせて30円となります。一方で負担者は最終消費者の一人で、負担額は30円となります。ここでは、消費税の納税額と負担額が一致していることと、消費税は納税者と負担者が異なるということが分かります。
市場だけ免税事業者編
消費税の納税者は、今回は市場が免税事業者のため、農家、スーパーの2人となり、納税額は合わせて20円です。負担者は変わらず最終消費者の一名で、負担額は30円です。今回のケースは負担額と納税額が一致せず、市場はその差額の10円を売上として手元に残していることが分かります。これがいわゆる益税とよばれるもので、インボイスの導入の理由の一つはこれをなくすためとされています。
市場だけ免税事業者(インボイス導入後)編
スーパーは前回と状況に変化はありませんが、インボイスが導入された後になりますと、免税事業者である市場から仕入れたダイコンの分の消費税20円は売上の部分の消費税30円から引くことができません。そのため、納税額は30円となり、前回より20円多く納税することになります。
消費税の納税者は、今回は市場が免税事業者のため、農家、スーパーの2人となり、納税額は合わせて40円です。
消費税の負担者は変わらず最終消費者の一名で、負担額は30円です。
今回のケースも負担額と納税額が一致せず、市場は10円を売上として手元に残していること、スーパーは免税事業者である市場からの仕入を行っているため、前回より20円多く納税していることが分かります。
インボイスが導入されて納税額に影響があるのは免税事業者ではなく、「免税事業者を仕入相手として取引を行っている課税事業者である」というのが今回の肝となります。
以上で、消費税とインボイス制度についての説明は終わります。
2.インボイス制度で必要な事前準備
まず、必要な事前準備を端的にまとめたフローチャートを作成しましたのでご確認ください。
このチャートの後に文章で説明をしていますので、詳しく知りたい方はそちらもご参考にしてください。
売り手側
1.インボイス発行事業者の登録申請をしましょう
令和5 年10 月1 日からインボイス発行事業者になるには、令和5 年9 月30 日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する必要があります。
参考
※令和5 年10 月1 日より後にインボイス発行事業者になるには
課税事業者の場合
登録申請書を提出し、その後登録を受けた日(登録日)からインボイスの発行が可能となります。
免税事業者の場合
登録申請書に「登録希望日」(提出日から15 日以降の登録を受ける日として事業者が希望する日)を記載することで、その日から課税事業者となり、それと同時にインボイスの発行が可能となります。
(令和11 年9 月30 日までの課税期間でこの制度が適用できます。)
2. インボイス発行事業者となった旨を取引先へ通知しましょう
仕入税額控除ができるか、買い手側が課税事業者であれば強い関心があると想定されるため、事前に当法人がインボイス発行事業者となっていると伝えることが望ましいです。
後述する、取引先に対して発行する登録番号の確認の書面にこちらの登録番号を記載しておくことで、通知と確認を同時に行うなどの工夫が考えられます。
3. インボイスとして発行、保存する書類の決定、取引先への通知をしましょう
インボイスは定められた様式がないため、実際に発行するインボイスの様式を法人内で作成する必要があります。
一から新しく様式を作成するというよりも、従前の請求書等に必要な記載事項を追加してインボイスとして発行する方が事務負担の面ではより良い方法と考えられます。
ただし、取引先に応じて様式の変更をするといったことも考えられるため、インボイス導入前に見本を送り、取引先と確認を取ることでスムーズな対応ができるかと思われます。
参考
※記載事項の追加の一例(手書きで領収書を発行しているケース)
従前の領収書に記載されていない事項が「登録番号」「適用税率」「適用税率ごとの消費税額」の場合
「登録番号」
→通知された登録番号を印字したゴム印を作成しておき、領収書発行時に押印
「適用税率」「適用税率ごとの消費税額」
→取引内容、金額が固定されているのであれば記載内容を取引、金額ごとにリスト化し、領収書発行時に取引、金額に応じて対応税率、消費税額を記入する
買い手側
1.取引先がインボイス発行事業者になるのかの確認をしましょう
制度の理解で記載したように、当法人が買い手になった際に、相手の売り手がインボイス発行事業者かそうでないかが消費税の負担額に大きく影響します。そのため、事前に取引先に「インボイス発行事業者となっているか、あるいは今後なる予定があるか」の確認が必要となります。質問状を作成し、継続して取引を行う予定のある取引先に送る(メール、書面、実際に対面して)などの方法が考えられます。
2.継続して取引を行う取引先の登録番号を管理しましょう
取引の際に毎回すべて必要な記載事項が載っているインボイスが発行されるケースにはあまり影響がありませんが、契約書と通帳でインボイス記載事項を補完するような取引(賃料等)のケースでは、定期的に「インボイス発行事業者でなくなっていないか」の確認が必要となるため、取引の種類ごとなどソートをかけられる状態としておくことでスムーズな事務処理が可能かと思われます。
取引先の登録番号については、「質問状に記載をしてもらい、その質問状をつづり、保管しておく方法」や、「エクセルデータ等にまとめて保管しておく方法」などが考えられます。
3.継続して取引を行う取引先がインボイス発行事業者でない場合の対応方法を検討しましょう
前述したとおり、取引相手がインボイス発行事業者でない場合はその分の仕入税額控除ができなくなります。そのため、インボイス発行事業者への登録要請や、取引条件の交渉を検討されるかと思われます。登録要請にあっては問題にはなりませんが、取引条件の見直しをする際には、やり方(一方的な金額の決定など)によっては「独占禁止法」や「下請法」の違反となる可能性があるため注意が必要です。
以上で、インボイス制度についての事前準備の説明を終わります。
いまだに制度自体の調整が行われている本制度は、実際に導入される際に、今回の記事でご説明した内容から変更されている可能性があります。
判断に迷われたときや、決断をしようとされる前に当事務所までご連絡いただけますと最新の情報でサポートができますので是非ご一報ください。